井上雄彦「リアル」が胸アツすぎて泣ける(画像10枚付き感想)
- 11/02/2014 07:33
『リアル』1巻から13巻まで、まとめてレビュー。作者は井上雄彦。
(7巻)
ヤングジャンプで不定期連載中の車椅子バスケットボール(障害者)漫画。あらすじだけまとめた1巻目のレビューはこちら。おそらく今月か来月には最新14巻が発売されるはず。
主人公は3人。今回はその一人、高橋久信メインでレビュー。
ある日、大型トラックに轢かれて、下半身不随になってしまう高橋久信。事故以前はバスケ部のキャプテンで、練習も本気で頑張らなくても「俺つえーし」みたいな典型的な中二病。自分が世界の中心だと思ってて、人をランク付けして勝手に自己満足してる野郎。
だから「何で俺なんだ…?」と、障害者になったという現実を受け止めきれない。3巻で一人病院で涙する姿に貰い泣き。
その高橋久信が交通事故をキッカケに、障害という現実を目の前に、自分という存在に向き合っていかざるを得ない。同時に、人間的な成長を遂げて、弱さを克服していかなきゃいけない。
(3巻)
他の主人公・野宮朋美だったら逆に加害者の立場として苦悩を抱えたり、軽度障害者の戸川清春だったら自分の心を救ってくれた友達が難病で今にも死にそう。
そんな現実を目の前にもがいていく若者たちの物語・群像劇。この三人の共通の接点が、バスケットボール・車椅子バスケットボール。
個人的に一番グッと来るのが、高橋久信のクダリ。ずっと虚勢を張って生きてきた。ある意味、一番心根が弱い。
交通事故をキッカケに、久々に離婚した父親と過ごす。高橋久信の父親は現在田舎で、しがない陶芸をやって暮らしてる。気晴らしのために外泊許可を病院からもらう。障害を理由に甘えてしまう高橋久信。自分はAランクの人間だったのに、今では底辺の障害者だと思ってる。そんな自分が恥ずかしい。だから助けてくれようとした通行人に悪態をつく。
(6巻)
でも、それをピシャっと戒める父親。
ただ高橋久信は久々に会いに来た父親が憎い。そして一言反論。「おいおい、まるで父親みたいなこと言いますね」と嫌味全開。でも高橋久信は父親が嫌いだから憎いんじゃない。むしろ大好き。
(6巻)
小学生の頃は父親にホメられるため、バスケットボールの練習に励んでた。一人で浮かべるクスクスという表情が、いかにも父親への愛情の深さを物語ってる。
(6巻)
ただエリートサラリーマンだった父親の帰宅はいつも深夜。なかなか自分のバスケットボールの成長を見てもらえない。だからこそ、「カッコイイ父親像」を抱いてた高橋久信は、現在田舎暮らしでくすぶってる父親にも幻滅。
でも陶芸を通して、「自分の心の声を聞く」大事さを知らされる高橋久信。父親が大好きでバスケを頑張っていた、その過去を思い出す高橋久信。徐々に父親に対して抱いていた感情も湧き上がっていく。
(6巻)
そして、父親に対して思いの丈をぶつける高橋久信。下半身不随になってしまったら、バスケットボールが上手くなった自分の姿を見せられない。その強烈な後悔が、涙として溢れ出てくる。高橋久信の一皮むけた感に、読者の自分もグッと来た。
徐々にリハビリに励むようになった高橋久信。そこで脊髄損傷で下半身不随になった、スコーピオン白鳥というプロレスラーと出会う。この出会いが、更に高橋久信に心の変化をもたらす。
(13巻)
13巻では下半身が動かないのに、スコーピオン白鳥がリングでばりばりプロレスを展開。しかも障害者になる以前と同じく、徹底してリング上でヒールを演じる。そのひたすらに、がむしゃらな姿を見て心打たれる高橋久信。
(13巻)
自分を閉じ込めていた瓶の殻から完全に開放される。虚勢を張って、自分自身に貼っていたレッテルを全て剥がす。「障害に勝つ」ことは不可能だけど、「障害に負けない」ことは可能。そこで初めて高橋久信は『自分のリアル』に受け入れる。
本当目頭が熱くなる。そして、高橋久信は再びバスケに向き合って、車椅子バスケットボールを始める。これが13巻の終わり。高橋久信と戸川清春もやっと交錯し始める。野宮朋美のリアルも進みそうで進まないですが、3人がどう絡んで成長していくのか、リアルの続きが楽しみ。
『リアル』の内容は面白いんですが、ただいかんせんストーリーの進行が遅い。漫画の時間軸が…というより、井上雄彦の掲載ペースが遅すぎる。
何故なら、リアル第1巻が発売されたのが1999年(平成11年)。15年かかって、やっと高橋久信が車椅子バスケットボールを始める。連載開始時に生まれた子供は、来年高校生。下手すると、その子供が結婚して子供も産んじゃいますよ。
1年に1巻の発行ペースですらない、『ハンターハンター』の冨樫義博以下。読者としては、おあずけ感がハンパない。モーニングで『バガボンド』を同時に連載してるとは言え、どっちつかず。とりあえず井上雄彦は手を広げすぎ。まずは自分の「リアル」を認識しろよ的な。
この『リアル』は読んでて、胸が熱くなる。
若者の葛藤や苦悩が見事に投射されてて、映像的なコマ割りなど含めて見入っちゃう。スラムダンクの山王戦を彷彿とさせるような、「一瞬」を凝縮する力が半端ない。画力の高さがストーリーでも生きてて、井上雄彦の本髄。
バガボンドは画だけって感じですが、ストーリーで泣かされる。別にセリフが多いわけじゃないんだけど感動。やっぱ井上雄彦は、身近な非リアルなネタの方がリアルに描けるのかも。
時代劇も非リアルっちゃ非リアルですが、どっか遠い世界。しかも原作付きだと却って作品も小じんまりしがち。井上雄彦はひたすら自分の作品の実写化を拒んでるようですが、自分だって原作に頼ってんじゃねーかよっていう。時代考証なんてクソったれ。まずはその矛盾したリアルに井上雄彦は向き合ってほしい。
つか、よゐこ有野のゲームセンターCXみたく、漫画を読むだけでお金をもらえる求人がハローワークに出てないかな。しかも日給10万円ぐらいで!ソッコー転職すんのに!!…と現実(リアル)逃避してみる。
◯展開★5◯テンポ★4
◯キャラ★4◯画力★5
◯大人買い★5
◯92点!!!!

ヤングジャンプで不定期連載中の車椅子バスケットボール(障害者)漫画。あらすじだけまとめた1巻目のレビューはこちら。おそらく今月か来月には最新14巻が発売されるはず。
交通事故をキッカケに「自分」と向き合う若者
主人公は3人。今回はその一人、高橋久信メインでレビュー。
ある日、大型トラックに轢かれて、下半身不随になってしまう高橋久信。事故以前はバスケ部のキャプテンで、練習も本気で頑張らなくても「俺つえーし」みたいな典型的な中二病。自分が世界の中心だと思ってて、人をランク付けして勝手に自己満足してる野郎。
だから「何で俺なんだ…?」と、障害者になったという現実を受け止めきれない。3巻で一人病院で涙する姿に貰い泣き。
その高橋久信が交通事故をキッカケに、障害という現実を目の前に、自分という存在に向き合っていかざるを得ない。同時に、人間的な成長を遂げて、弱さを克服していかなきゃいけない。

他の主人公・野宮朋美だったら逆に加害者の立場として苦悩を抱えたり、軽度障害者の戸川清春だったら自分の心を救ってくれた友達が難病で今にも死にそう。
そんな現実を目の前にもがいていく若者たちの物語・群像劇。この三人の共通の接点が、バスケットボール・車椅子バスケットボール。
殻に閉じこもる高橋久信のリアル
個人的に一番グッと来るのが、高橋久信のクダリ。ずっと虚勢を張って生きてきた。ある意味、一番心根が弱い。
交通事故をキッカケに、久々に離婚した父親と過ごす。高橋久信の父親は現在田舎で、しがない陶芸をやって暮らしてる。気晴らしのために外泊許可を病院からもらう。障害を理由に甘えてしまう高橋久信。自分はAランクの人間だったのに、今では底辺の障害者だと思ってる。そんな自分が恥ずかしい。だから助けてくれようとした通行人に悪態をつく。

でも、それをピシャっと戒める父親。
ただ高橋久信は久々に会いに来た父親が憎い。そして一言反論。「おいおい、まるで父親みたいなこと言いますね」と嫌味全開。でも高橋久信は父親が嫌いだから憎いんじゃない。むしろ大好き。

小学生の頃は父親にホメられるため、バスケットボールの練習に励んでた。一人で浮かべるクスクスという表情が、いかにも父親への愛情の深さを物語ってる。

ただエリートサラリーマンだった父親の帰宅はいつも深夜。なかなか自分のバスケットボールの成長を見てもらえない。だからこそ、「カッコイイ父親像」を抱いてた高橋久信は、現在田舎暮らしでくすぶってる父親にも幻滅。
胸アツな人間ドラマ
でも陶芸を通して、「自分の心の声を聞く」大事さを知らされる高橋久信。父親が大好きでバスケを頑張っていた、その過去を思い出す高橋久信。徐々に父親に対して抱いていた感情も湧き上がっていく。

そして、父親に対して思いの丈をぶつける高橋久信。下半身不随になってしまったら、バスケットボールが上手くなった自分の姿を見せられない。その強烈な後悔が、涙として溢れ出てくる。高橋久信の一皮むけた感に、読者の自分もグッと来た。
徐々にリハビリに励むようになった高橋久信。そこで脊髄損傷で下半身不随になった、スコーピオン白鳥というプロレスラーと出会う。この出会いが、更に高橋久信に心の変化をもたらす。

13巻では下半身が動かないのに、スコーピオン白鳥がリングでばりばりプロレスを展開。しかも障害者になる以前と同じく、徹底してリング上でヒールを演じる。そのひたすらに、がむしゃらな姿を見て心打たれる高橋久信。

自分を閉じ込めていた瓶の殻から完全に開放される。虚勢を張って、自分自身に貼っていたレッテルを全て剥がす。「障害に勝つ」ことは不可能だけど、「障害に負けない」ことは可能。そこで初めて高橋久信は『自分のリアル』に受け入れる。
本当目頭が熱くなる。そして、高橋久信は再びバスケに向き合って、車椅子バスケットボールを始める。これが13巻の終わり。高橋久信と戸川清春もやっと交錯し始める。野宮朋美のリアルも進みそうで進まないですが、3人がどう絡んで成長していくのか、リアルの続きが楽しみ。
リアルのストーリー進行が遅すぎる
『リアル』の内容は面白いんですが、ただいかんせんストーリーの進行が遅い。漫画の時間軸が…というより、井上雄彦の掲載ペースが遅すぎる。
何故なら、リアル第1巻が発売されたのが1999年(平成11年)。15年かかって、やっと高橋久信が車椅子バスケットボールを始める。連載開始時に生まれた子供は、来年高校生。下手すると、その子供が結婚して子供も産んじゃいますよ。
1年に1巻の発行ペースですらない、『ハンターハンター』の冨樫義博以下。読者としては、おあずけ感がハンパない。モーニングで『バガボンド』を同時に連載してるとは言え、どっちつかず。とりあえず井上雄彦は手を広げすぎ。まずは自分の「リアル」を認識しろよ的な。
リアル1巻から13巻の総評
この『リアル』は読んでて、胸が熱くなる。
若者の葛藤や苦悩が見事に投射されてて、映像的なコマ割りなど含めて見入っちゃう。スラムダンクの山王戦を彷彿とさせるような、「一瞬」を凝縮する力が半端ない。画力の高さがストーリーでも生きてて、井上雄彦の本髄。
バガボンドは画だけって感じですが、ストーリーで泣かされる。別にセリフが多いわけじゃないんだけど感動。やっぱ井上雄彦は、身近な非リアルなネタの方がリアルに描けるのかも。
時代劇も非リアルっちゃ非リアルですが、どっか遠い世界。しかも原作付きだと却って作品も小じんまりしがち。井上雄彦はひたすら自分の作品の実写化を拒んでるようですが、自分だって原作に頼ってんじゃねーかよっていう。時代考証なんてクソったれ。まずはその矛盾したリアルに井上雄彦は向き合ってほしい。
つか、よゐこ有野のゲームセンターCXみたく、漫画を読むだけでお金をもらえる求人がハローワークに出てないかな。しかも日給10万円ぐらいで!ソッコー転職すんのに!!…と現実(リアル)逃避してみる。
◯展開★5◯テンポ★4
◯キャラ★4◯画力★5
◯大人買い★5
◯92点!!!!